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東京高等裁判所 昭和44年(く)420号 決定

主文

原決定を取消す。

本件正式裁判請求権回復請求を却下する。

本件正式裁判請求を棄却する。

理由

本件即時抗告の理由は、被告人作成の即時抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原決定は、被告人に対する頭書被告事件について東京簡易裁判所が昭和四四年七月二三日なした略式命令の謄本が被告人に送達されていないのに、右送達が適法になされたことを認め、右事実を前提として被告人の正式裁判請求権回復請求及び正式裁判請求を棄却したものであって、違法であるから取消さるべきものである、というのである。

よって、按ずるに、本件抗告事件記録及び取寄せにかかる本件被告事件記録によると、右略式命令の発布から執行官代理による右略式命令謄本の野口富士子に対する交付までの経緯についての原判示事実を肯認できる。原決定は、右手続により刑事訴訟法第五四条、民事訴訟法第一七一条第一項による被告人に対する右略式命令謄本の適法な送達があったものと認められる旨判示しているが、同条項は、受送達者本人以外の者に書類を交付することによって、受送達者本人に直接交付したのと同様の効果を付与する趣旨であることに鑑み、右受交付者は、その人に書類を交付すれば直ちに受送達者本人にそれが到達することができるような密接な関係にあるものに限られるものと解すべきであり、従って、同条項にいう事務員、雇人とは、受送達者本人の事務員、雇人乃至受送達者本人と右の趣旨からみてこれと同一視できるような関係にある事務員、雇人をいい、同居者とは、受送達者本人と同一世帯に属する者をいい、本件における右野口のように単に被告人の勤務先であり且住居である株式会社東京宝石の事務員であるに過ぎない者はこれに当らないものというべきであるから、右野口に対する右略式命令謄本の交付によってその送達が適法になされたものとみることはできないのであり、而も前掲記録等を検討しても、本件において右略式命令謄本が後に被告人に交付されたという、適法な送達があったと同一の効力を生じたものと解されるような事情も認められず、その他被告人に右略式命令謄本が適法に送達されたと認めるべき資料は存しない。よって、右の原判示は、明らかに法令の解釈を誤ったものであって、これを前提として被告人の正式裁判請求権回復請求及び正式裁判請求を棄却した原決定は違法であって、取消しを免れない。論旨は理由がある。

よって、本件抗告は理由があるから、刑事訴訟法第四二六条第二項により原決定を取消した上、進んで、被告人の右各請求が認容できるかについて考えると、前判示のように右略式命令謄本が被告人に送達されていない以上、右略式命令は未だ告知されておらず、その効力を生じていないものであるから、右略式命令に対する不服申立である被告人の正式裁判請求権が発生するに由なく、従って右請求権回復請求権も亦これを認めるに由なきものであって、結局、被告人の正式裁判請求権回復請求は不適法であるからこれを却下し、同正式裁判請求は法令上の方式に違反しているから刑事訴訟法第四六八条第一項によりこれを棄却すべきものである。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長判事 脇田忠 判事 高橋幹男 環直弥)

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